1997年4月23日の句(前日までの二句を含む)

April 2341997

 茶畑のずり落ちさうでずり落ちず

                           丘本風彦

われてみると、なるほど茶畑はバランス的に危うい地形の丘陵に多くある。いまにも、ずり落ちてきそうだ。同じ風景を見ても、人それぞれに感じ方は違うとは分かっていても、この句には「やられた」と思ってしまう。感じ方の差異などあっけなく乗り越えて、読者をねじ伏せるようにユーモアをまじえて説得している。いわば「コロンブスの卵」的発想の名句だろう(ただし、玄人っぽすぎるかもしれないが……)。そろそろ新茶が出回りはじめる季節。今年の作柄は、静岡茶では平年並みというニュース。(清水哲男)


April 2241997

 梅の実の子と露の子と生れ合ふ

                           中川宋淵

が散った後、気にも留めなかった梅の枝に小さな実がついているのに気がつく。近よってみると、その梅の実にさらに小さな露の玉がついている。青い梅の実と透きとおった露がすがすがしい。植物、梅の実は水があってこそはもちろんだが、「露の子」も「梅の実の子」の柔毛?があってこそ生まれたという生命の共生への思いを込めた「生れ合ふ」だろう。(齋藤茂美)


April 2141997

 むつまじき吾が老父母にパンジーなど

                           赤城さかえ

良きことは美しき哉。素直すぎるくらいの句だ。が、妙にひねくりまわすよりも、このほうがよほどいい。作者とともに、読者もホッとできる。ところで、このパンジー(三色菫・遊蝶花)。どんな歳時記を開いても春の部に収録されているが、実際には秋でも冬でも元気に咲いている。近年、新しい品種が開発されたからだ。老舗の「タキイ種苗」(下り新幹線で京都駅近くにさしかかると、北側に本社社屋が見える)が二十年という歳月をかけて品種改良したものだという。冬の北欧などでパンジーを見かけたら、日本産と思って間違いはないそうだ。すなわち、今後創作されるパンジーの句は、必然的に「無季」ということになってしまう。「タキイ」も余計なことをしてくれた。と言ってよいのか、悪いのか……。(清水哲男)




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