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March 0731997

 空をゆく花粉の見ゆるエレベーター

                           大野朱香

じめて乗ったエレベーターは、大阪梅田は阪急百貨店のそれだった。小学二年。敗戦直後。まだ蛇腹式の扉で、昇降するときには各階の売り場が見え、その不思議さに圧倒された記憶がある。余談だが、ベーブ・ルースのエレベーター好きは有名で、遠征先のホテルで暇さえあれば楽しんでいたという。ボーイへのチップも莫大だったらしい。ところで昭和初期のエチケット読本の類には「昇降機の正しい乗り方」なる項目があり、「乗った人は扉と正対すること」などと書いてある。この句のエレベーターは、扉を背にして乗る(というよりも、どこを向いて乗っていればよいのか困ってしまう)最近のタイプのもの。花粉が見えるわけはないけれど、外が見える楽しさから、心がついこのように浮き立ってしまうときもある。(清水哲男)


March 0631997

 勿忘草蒔けり女子寮に吾子を入れ

                           堀口星眠

忘草(わすれなぐさ)は、英名の"FORGET ME NOT"からつけられた名前。元来は恋人への切ない想いを託した命名であるが、ここでは旅立っていった娘を案じる父親の気持ちが込められている。春は別れの季節。進学や就職で、子供は親元を離れていく。親も、その日が来ることを覚悟している。が、赤ちゃんのときからずっと一緒だった吾子に、いざ去られてみると、男親にもそれなりの感傷がわいてくる。淋しい気分がつづく。このときに作者は、たぶん気恥ずかしくなるような花の名を妻には告げず、何食わぬ顔で種を蒔いたのだろう。この親心を、しかし、遠い地の女子寮に入った娘は知らないでいる。それでよいのである。(清水哲男)


March 0531997

 新聞紙揉めば鳩出る天王寺

                           摂津幸彦

阪の天王寺界隈は、不思議なところだ。近鉄百貨店の本店があり有名な動物園があり、ゲーテ書房という本屋があり競輪選手の宿泊所があり、古風な写真館があり伊東静雄の通った中学校もあり、釜ケ崎を控え、したがって近くには通天閣があり……。たしかに手品の鳩でも出てきそうな、なんでもありの街である。それでいて、いや、だからこそか、いまいち活気には欠けており、どうしても場末という感じは拭いきれない。一読、鹿々(平凡なさま)を愛した作者ならではの着眼であり、天王寺を知る人ならば必ず納得のいく句であろう。『鹿々集』所収。(清水哲男)




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