December 081996
盲ひゆく患者の歳暮受くべきや
向野楠葉
歳暮商戦も、今週あたりがピークだろう。十日には国家公務員のボーナスも出る。師走の贈り物は江戸時代からの慣わしのようだが、この句のように受け取る側が困惑させられるケースも、多々あるにちがいない。いくら手をつくしても、患者の目が光りを失うのは時間の問題とわかっている。その患者から、はやばやと歳暮の品が届いた。とっさに「受くべきや」と自問するのだが、結局は「受ける」しかない辛さ、やりきれなさ……。職業人ならではの悲しみ。(清水哲男)
December 071996
辞表預り冬の銀座の人混みを
杉本 寛
これぞ人事句。この、一年でいちばん寂しい季節に、辞表を出した人の気持ちも切ないだろうが、受け取った側にもやはり切ない思いがわいてくる。辞表を鞄の中に収めたまま、さてどうしたものかと思案しながら、華やかな銀座通りを歩いていく。大勢の通行人。きらびやかなショー・ウインドウ。擦れ違う多くの人が「懐にボーナスはあり銀座あり」(榊原秋耳)などと大平楽に、つまりまことに羨ましく見えてしまうのでもある。(清水哲男)
December 061996
雉子鳴いて冬はしづかに軽井沢
野見山朱鳥
何でもないような句ですが、そこがいいですね。避暑地の冬です。夏場の混雑と対比させるために、あえて「しづか」と言ったところが利いています。冬の軽井沢を、私はもちろん知りませんが、この句のとおりなのでしょう。風景は寒々としていても、読者をホッとさせてくれます。さすがはプロの腕前だと思いました。アマチュアには、できそうでできない作品のサンプルといってもよいのではないでしょうか。『荊冠』所収。(清水哲男)
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