句(前日までの二句を含む)

November 30111996

 あたゝかき十一月もすみにけり

                           中村草田男

版の角川書店編『俳句歳時記』には、この句と並んで細見綾子の「峠見ゆ十一月のむなしさに」が載っている。長年親しんできた歳時記だから、毎年この時期になると、二つの句をセットで思いだすことになる。並んでいるのは偶然だが、いずれもが、十一月という中途半端で地味な月に見事な輪郭を与えていて、忘れられないのだ。忙中閑あり。……ならぬ、年の瀬をひかえて「忙前閑あり」といえば当たり前だが、両句ともそんな当たり前をすらりと表現していて、しかもよい味を出している。ただ草田男句の場合は、どちらかといえば玄人受けのする作品かもしれない。(清水哲男)


November 29111996

 白鳥は悲しからんに黒鳥も

                           高屋窓秋

語は白鳥。もとより若山牧水の「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」のパロディ。作者は明治34年生まれ。戦前の新興俳句運動の旗手として「山鳩よみればまはりに雪がふる」等の名作を書いている。「馬酔木」「天狼」を経て、平成の世になってから孫ほども年の違う若い世代の集う前衛誌「未定」の同人となる。この句を見てもまったく年を感じさせない。永遠の青年である。平成8年作。「未定」(68号)所載。(井川博年)


November 28111996

 母が家の布団の重き朴落葉

                           森賀まり

さしぶりの実家。おふくろの味など、実家を感じる要素にはいろいろとあるが、夜やすむときの布団の重さもそのひとつだ。まだ隙間風が入ってきた時代にこしらえた布団だから、分厚くて重いのである。遅寝して目覚めると、よい天気。早速、その重い布団を干そうと庭に出てみれば、大きな朴の落葉が何枚も……。布団と朴落葉のイメージは、質感も含めてどこかで類似しており、いま実家にあることの不思議な幸福感に、作者は満足しているようだ。この人の感性は鋭く、しかし表現は実に柔らかい。『ねむる手』所収。(清水哲男)




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