October 081996
雨だれの棒の如しや秋の雨
高野素十
秋は意外に雨の多い季節。この雨は本降り。雨だれもショパンのそれのように優雅ではない。しかし、なぜか心は落ち着く。あたりいちめんに、沛然たる雨音と雨の匂い。だんだん、陶然とした心持ちにすらなってくるのである。(清水哲男)
October 071996
静脈の樹が茂り合う美術館
吉田健治
美術館に出かけていくのは、館内に展示されている美術品を見るためである。しかし作者は入館の前に、美術館それ自体をまず「作品」として捉えている。とりたてて奇抜な発想ではないけれど、そして「静脈の樹」云々は作者の感性に属する事柄だとしても、美術館を訪れる人の誰しもが抱く思いのひとつを描いてみせた目は鋭い。「そう言われれば、そうだよね」という感じ。これが俳句の面白さだ。この句を読むと、ひさしぶりに美術館に行きたくなってきませんか。「抒情文芸」創刊20周年記念・最優秀賞受賞作品(選者・三橋敏雄)の内。(清水哲男)
October 061996
畳屋の肘が働く秋日和
草間時彦
猫が畳で爪を研ぎたがるのは納得がゆく。爪のひっかけ具合、弾力具合。お尻を引いて反り上げ、前足でバリバリ。先日、近所の畳屋さんに三匹の仔猫がいるのにはちょっと驚いた。天敵を置くようなものじゃないか。三匹は、前足を揃えリヤカーの畳の上。主人の仕事ぶりを見ていた。商売物には手を出すな、の教訓は守られているようだった。(木坂涼)
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