1996年9月9日の句(前日までの二句を含む)

September 0991996

 菊を詰め箱詰めにしたい女あり

                           田中久美子

意の句は珍しい。だから、女はコワい。と、思っては、実はいけない。……のではないか。何度か読んでいるうちに、どこかで笑えてくる。奇妙な味。本質はユーモアだ。作者は俳人ではなくて、詩人。宮下和子と二人で同人誌「飴玉」を出している。いつだったか、一緒にビールを飲んだことがあるが、秋風のように繊細にして才気あふれる女性であった。『む印俳句』所収。(清水哲男)


September 0891996

 思ひ寝と言ふほどでなし秋しぐれ

                           中村苑子

ひ寝。「恋しい人を思いながら寝ること」(大辞林)。それほどではないけれど、好ましい誰かをふと思いうかべながら眠りにつく。いつか雨の音が聞こえている。しぐれ(時雨)は冬の季語だが、ここは秋のしぐれ。(辻征夫)


September 0791996

 蜩や石工を熱き風呂が待つ

                           中里行雄

工という職業人の捉え方がいい。かなかなが鳴く仕事場で働く身に、熱い風呂が待っている。熱い風呂か。ビールがうまいだろうなあ。飯田龍太『現代俳句の面白さ』(新潮選書)より引用。ちなみにこの本は同類の入門歳時記の中では白眉である。(井川博年)




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