July 101996
わだつみに物の命のくらげかな
高浜虚子
眼前にあるのはくらげだが、「物の命」によって原初の命そのものを私たちは見ることになる。先行するものとして、漱石明治二十四年の句に、「朝貌や咲いたばかりの命哉」があるが、虚子はいわば、くらげによって命の句の決定版を作ってしまった。(辻征夫)
July 091996
大梅雨に茫々と沼らしきもの
高野素十
見たまま俳句の名手が、ほとんど何も見えませんねと書いているのだから、なるほど大梅雨なのだろう。最近の梅雨はしばしば根性がなく、たぶん大梅雨先輩に叱られているのではないかしらん。(清水哲男)
July 081996
草を打つ雨を遍路のゆきにけり
藤田あけ烏
四国八十八カ所の霊場を巡礼するお遍路さんの季は春。しかしこの句では雨の季節でなければならない。バサバサと草を打つ激しい雨に、作者の高い精神性が感じられる。俳誌「草の花」(1996年4月号)所載。(井川博年)
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