飲酒習慣



長い間、家では酒を飲まなかった。 深い理由はないが、 連れ合いがたまたま酒を飲まない人だったとか、 健康診断で脂肪肝だと言われてびっくりしたとか、 そんなこんなで何となく飲む習慣にはならなかった、 というだけのこと。 友達が遊びに来るからというので用意した洋酒とか、 その友達が土産に持ってきてくれた洋酒とか、 その日が過ぎると食器棚の奥にしまいこんで、 そのままになっていた。 それが最近になって毎日飲むようになった。 一年くらい前から、眠るのに苦労するようになって、 医者に頼み込んで眠れる薬をもらっていたら、 止められなくなっていて、 ちょっと恐くなったので、 薬の代わりに酒を飲んでみたわけ。 考えてみれば、 薬代よりも酒代の方が安いし、 最初のうちは買わなくても酒はあるし、 悪くないアイディアだよ。 おかげで薬はすぱっと止められたけれども、 酒が止められなくなった。 昼間、しらふの時でも、 ウィスキーやブランデーの匂いの記憶がふわっと蘇る。 アル中になりかけてるんじゃないかと ちょっと恐くなるけれど、 一日一杯だけだし、 そんなことはないだろうと思うことにして、 止めていない。 ブランデーを一本空にして、 ウィスキーを一本空にしたところで、 そろそろ次を買わないといけないなあと思っていたら、 連れ合いがまだあるわよと、 食器棚の奥の奥から死蔵されていた洋酒を出してくれた。 十年以上も前に友達が土産に持ってきてくれたブランデーとか、 「洋酒特級」なんてラベルのついたウィスキーとか。 その友達というのは、 当時はまだ独身だったけれど、 今では子供が幼稚園に通っているぜ。 そんなに放っておいても、 ウィスキーやブランデーはちゃんと飲めるところがえらい。 かくして、止まっていた小さな時が一つ、動き始めたというわけ。 多くの時が動いたり止まったりするのを見過ごしてきたはずだけれど。


(C) Copyright, 2005 NAGAO, Takahiro
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