虚構について



世界のなかのできごとは 決して反復せず、 同じことが繰り返されたように見えても、 それは細かい差異を無視したから同じに見えただけなのに、 できごとを表す言葉は、 まったく同じ形で反復することができる。 寸分たがわず同じ言葉が、 何度でも出現できる。 無視された細部は、 無視されるに値する 取るに足らないものだから、 無視しても構わないと言っても いいのかもしれない。 差異は瞬間的に無視され、 というか気付かれず、 消えていってしまう。 私たちに残されたのは、 何度でも反復できる言葉だけだ。 私たちは世界で直接考えることはできず、 反復可能な言葉でしか考えられない。 ときには意識される差異さえ無視して、 異なるものを強引に同じだと言うことによって、 何かがわかったような気になる。 いや、そうしなければわかったような気になれない。 そのような言葉が、 現実にある世界とは別の 虚であり実でもある世界を作り出してしまうのは、 当然なのかもしれない。


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