ものづくし



狭いところに集められ、 縛り付けられている。 逃げたくならないのだろうか。 それとも、 好んで集まってきている、 ということになっていて、 逃げたくても逃げられないのか。 いずれはまとめて捨てられる運命なのに。 マグカップ 一つしかない耳で、 あまりにも多くのことを、 知ってしまった。 大きく開いた口は、 ふさいでおかなくては。 サンドイッチ 足を伸ばして寝ていたら、 ふとんごと食われてしまった。 鉛筆 身を削らなければ、 無用のものだが、 身を削りすぎても、 無用のものになってしまう。 必死の思いで、 生きた痕跡を残そうとしても、 いとも簡単に消されてしまう。 消しゴム まちがえるとか、 考え直すとか、 そういうことがなければ、 まったく不要な存在。 でも、 不要になる気配はない。 あれば形を変えたくなる。 トースター さっきは怒りすぎた。 炭にするつもりはなかった。 頭を冷やすと、 残るのはいつも後悔ばかり。 蛇口 あふれる思いを、 内に秘めている。 思いがあふれ出しても、 時が来れば、 きっぱりと口を閉ざす。 口を閉ざしているからといって、 思いがないわけではない。 この通路はしょせん一方通行なのであって、 外からの働きかけを断固としてはねつけるのだが、 なまじ外が見えているような気がするもので、 そうだということを断固として認めない。 考えもなく立っているわけはないはずだが、 考えもなく立っているように見える。 鏡台 自分では、 瞬くこともできないけれども、 その瞳に映る景色は、 奥深く、 物悲しい。 テレビ 柱に降臨した神が、 糸をつたって屋内に入り、 箱のなかに流れ込んで、 あられもない姿を現した。


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鈴木志郎康氏評
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