国道脇に小さな案内所がある
ここで今夜の宿泊地を決めねばならない
車はひなびた民宿を目指し
右手に白く凍った湖面を見て走った
路面もところどころ氷っていて
車が横に尻を振るたび家族が耳のさけるような声をあげた
薄暗く暮れて行く山の深さに車は何度も
立往生する
旧家の煤けた柱が何本も立ち
冷えた空にわずかな湯けむりが吸われる
何時間掛かって辿り着いたか
夢は僕らを容赦なく眠りへと引き込んだ
夢の持ち主が
黒い入れ物を僕に差し出すが
それが母の肉片であろうことぐらいは
すぐに想像がついた
切れ目の入った黒い柱が
一斉に寝入った僕の幕内に落ち込んで来る
帰りたくないと家族は言う
深い湖面が左側になり車が滑れば
転落するからだ
僕は雪を一口くわえそれが消える間に
この山を抜け出したい
車は降り続く雪の中をゆっくりと走り出し
声もなく白い湖の中に消えた
昨夜の夢だけが蝋のように
湖面に描き出されている
Booby Trap No. 1
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