関富士子



曇り空から聞こえてくる くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅじゅくじゅくじゅく 見上げるとくらくらする 雲のすぐ下あたりに浮かんでいる 小さな黒いなにか あれは誰のたましいでもない 生きているヒバリだ 息もつかずにに鳴いている ひいひいひいひいひいちっちちっちちっちぢぢぢぢぢぢぢぢぢ (ヒバリの歌はけっこう複雑でながい小節があり、  口説かれているような気がするときもあります) 道のかたわらはハス池で 葉のあいだからウテナが何本も伸びて わずかな風にも揺れている まるで天国みたいな景色だけど (啓示かなんかにうたれたいです) ここは繁殖期の地上だ どこかに巣がある わたしの帽子と卵までの距離がヒバリにはわかる ハスの葉形にひろがった縄張りの中で わたしは警告されている なにごとかを聞き分けようと耳を澄ます 真上の空の一点でホバリングして 恩寵のような声を降らせるもの ここから出て行け と言っているようなのだが 一歩も動けない

Booby Trap No. 27


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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