June 1562016

 梅雨空に屋根職(やねしき)小さき浅草寺

                           玉川一郎

陶しい梅雨空がひろがっている。参道から見上げると、浅草寺本堂の大きな屋根を修繕している職人の姿が、寺の大きさにくらべ小さく頼りないものとして眺められる。梅雨曇りの空だから、見上げるほうも気が気ではない。はっきりしない梅雨空に、屋根職の姿と寺の大きさが際立っていて、目が離せないのであろう。「屋根職」は屋根葺きをする職人のこと。先日のテレビで、せっかく浅草寺を訪れた外人観光客たちが、テントで覆われた雷門にがっかりしている様子が紹介されていた。気の毒であったけれどやむをえない。そう言えば何年か前、私が浅草寺を訪れたとき、本堂改修のためあの大きな本堂がすっぽり覆われていて、がっかりしたことがあった。ミラノの有名なドゥオーモ(大聖堂)を初めて訪れたときも、建物がすっぽり覆われていたことがあって「嗚呼!」と嘆いた。しかもそのとき、無情にも2月の雪が降りしきっていた。そんなアンラッキーなこともある。一郎には他に「杉高くまつりばやしに暮れ残る」がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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