June 1162016

 十薬やいたるところに風の芯

                           上田貴美子

の犬の散歩に時々付き合うようになって半年ほどになる。早朝の住宅街をただ歩く、ということはほとんどなかったので、小一時間の散歩だがあれこれ発見があって楽しい。そんな中、前日まで全く咲いていなかった十薬の花が今朝はここにもあそこにもいきなりこぞって咲いている、と驚いた日があった、先月の半ば過ぎだったろうか。蕾は雫のようにかわいらしく花は光を集めて白く輝く十薬。どくだみという名前とはうらはらに、長い蘂を空に伸ばして可憐だ。いたるところで風をまとっている十薬の花と共に、どこかひんやりとした梅雨入り前の風自体にも芯が残っているように感じられたのを思い出した。他に〈透明になるまで冷えて滝の前〉〈人声が人の形に夏の霧〉。『暦還り』(2016)所収。(今井肖子)




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