June 0462016

 人待ちの顔を実梅へ移しけり

                           中田みなみ

近は駅などで待ち合わせをしている人はほとんどややうつむき加減で手元を見ているので、人待ち顔で佇んでいる姿を見ることは少ない。人待ちの顔、とは本来、待ち人を探すともなく探しながら視線が定まらないものだが、掲出句はそんな視線が梅の木に向けられた、と言って終わっている。葉陰に静かにふくらんでくる青梅は目立たないがひとつ見つけると、あ、という小さな感動があり、次々に見えてきてついつい探してしまう、などという言わなくても分かることは言う必要がないのだ。移しけり、がまこと巧みである。他に〈爪先に草の触れゆく浴衣かな〉〈紙の音たてて翳りし祭花〉。『桜鯛』(2015)所収。(今井肖子)




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