June 0362016

 葭切や葭まつさをに道隠す

                           村上鞆彦

切、特にオオヨシキリは夏場九州以北の低地から山地のヨシ原に渡来し、海岸や河口の広いヨシ原では多く見られる。おすは葭の茎に体を立ててとまり、ギョッギヨッシ、ギョッギヨッシと騒がしく囀る。その鳴き声から行行子(ぎょうぎょうし)の別名がある。ふと命の出し惜しみをして生きている吾身を反省する。最後に精一杯叫んだのは何時の事か記憶にない。甲高い鳴き声に一歩葭原に踏み入れてみても道は隠され、茂みの深さの為に中々営巣には近付けない。ただまつさをな葭原の只中に耳を聳てて聞き入るばかりである。因みにコヨシキリは丈の高い草原にすみ細い声で囀る。他に<花の上に押し寄せてゐる夜空かな><投げ出して足遠くある暮春かな><枯蟷螂人間をなつかしく見る>などあり。「俳句」(2013年8月号)所載。(藤嶋 務)




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