June 0162016

 馬洗ふ田川の果の夕焼(ゆやけ)雲

                           岩佐東一郎

日ではほとんど見られなくなった光景である。田の農作業が終わって、暑さでほてり、汗もかいてよごれた馬を、田川で洗っている。その川はずっと遠くまでつづいていて、ふと西の方角を見れば夕焼雲がみごとである。馬も人もホッとしている日暮れどきである。ここでは「馬洗ふ」人のことは直接触れられていないけれど、一緒に労働していた両者の心が通っているだろうことまでも理解できる。馬だけではなく、洗う人も水に浸かってホッとしているのだ。遠くには赤あかと夕焼雲。「馬洗ふ」には「馬冷やす」「冷し馬」などの傍題がある。かつて瀬戸内海地方には陰暦六月一日に、ダニを洗い落とすために海で牛を洗う行事があったというが、現在ではどうか? 掲出句はその行事ではなくて、農作業の終わりを詠んだものであろう。詩人・岩佐東一郎には「病める児と居りて寂しき昼花火」がある。加藤楸邨には「冷し馬の目がほのぼのと人を見る」がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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