May 2652016

 噴水の奥見つめ奥だらけになる

                           田島健一

の季語の噴水といえば、水を噴き上げるその涼しげな姿を詠むのが定石。それがこの句は噴水の水盤の奥を見つめているのだろうか。変化をつけながら水しぶきを上げて舞う噴水の穂先の華やかさに比べ、落ちる水を受け止める黒っぽい敷石は水面の変化を受け止めながらも不変である。じっと見つめていると視界そのものが「奥だらけになる」見つめている側の感覚に引き込まれてゆくようで私には面白く感じられるが「噴水の奥ってどこ?」「奥だらけって何?」と戸惑う読み手も多いだろう。季語の概念にとらわれずに対象を自身の感覚で捉えなおすことは多数の俳人が詠み込んでゆくなかで季語に付与された本意本情と考えられているものをいったん脱ぎ捨てることでもある。共感を呼び込むには難しいところで勝負している句かもしれない。「オルガン」2号(2015)所載。(三宅やよい)




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