May 10 2016
龍天に登る背中のファスナーを
嵯峨根鈴子
龍は春分の頃に雲を引き連れ天へと登り、秋分の頃に地に下り淵に潜むとされる。中国後漢時代の字典による俳人好みの季題である。しかし、作者は伝説上の生きものをとことん身近に引き寄せる。あるときは背中のファスナーに住みつき、またあるときは〈龍天にのぼる放屁のうすみどり〉と、すっかり飼いならされた様子となる。今頃はおそらく作者の家の欄間あたりに身を寄せているのではないか。なんというファンタジー、なんという愉快。目を凝らせばこのような景色が見えるのかもしれないと、慌てて見回してみれば梅雨入り間近の猫がひきりなしに顔を洗っているばかりである。〈ラムネ壜しぼれば出さうラムネ玉〉〈わたむしに重力わたくしに浮力〉『ラストシーン』(2016)所収。(土肥あき子)
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