May 0552016

 遠くから来た人の靴アマリリス

                           吉野裕之

きな花弁の赤いアマリリスの鉢植えを見かける季節になった。アマリリスという花の名はおとぎ話に登場する主人公のようで、甘やかな響きを持っている。掲載句は玄関にある客人の靴だろうが、子供のころ学校から帰って家族の靴と違う靴が揃えて置いてあると、ふすまを細めに開けて客間を覗いたものだ。来客は日常とは違う空気を運んでくる。玄関先の靴とアマリリスの取り合わせと考えると身近な日常の風景であるが、「遠くから来た」という表現がリリカルで、距離だけでなく過ぎ去ってしまった昔からやってきた人の靴に思えて、どこか懐かしい。『みつまめ』(2015)立夏号所載。(三宅やよい)




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