April 3042016

 ゆく春の耳掻き耳になじみけり

                           久保田万太郎

日でなにかと慌ただしかった四月が終わる。いつもながら四月は、春を惜しむ感慨とは無縁にばたばたと過ぎて、ゴールデンウイークでちょっと一息つくと立夏を迎えてしまう。春まだ浅い頃、ああもう春だなあ、と感じることは目まぐるしい日常の中でもよくあるけれど、過ぎ行く春を惜しむ、というのは余裕がないとなかなか生まれない感情のように思っていた。しかし掲出句は、耳掻きで耳掃除をするという小さな心地よさを感じながら、淡々とゆく春に思いをはせている。さらに、ゆく、という仮名のやわらかさが、ことさら惜しむ心を強調することなく、再び巡ってくるであろう春を穏やかに送っていて不思議な共感を覚える。『俳句歳時記 第四版』(2008・角川学芸出版)。(今井肖子)




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