April 2242016

 海猫低く翔べる羽風や春北風

                           藤木倶子

猫は、日本近海のカモメ類で最も多く、別称「ごめ」。本州で繁殖するただ一種のカモメである。春先にそれぞれの越冬地から繁殖地である近海の島にわたる。これが「海猫(ごめ)渡る」という春の季語である。青森県の蕪島、山形県の飛島、島根県の経島(ふみしま)が有名で、これらの場所では天然記念物に指定されている。春のまだ寒い季節に吹く渡る春北風(はるならひ)の中を風を切って低く飛翔している。人間の目線に近い低さでその風を切る音も聞こえそうである。今を生きる為に餌を求め、鳴きながらも、寒さに耐えて野生の命はみんな逞しく生きて行く。他に<一斉に光集めて福寿草><闇はじく争ひの目や恋の猫><侘しさを頒ちて傾ぐ春北斗>などが並ぶ。俳誌「俳句」(2015年4月号)所載。(藤嶋 務)




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