April 1642016

 春月の病めるが如く黄なるかな

                           松本たかし

しづつ月が育っている今週の初め、寝室の窓から細く黄色い月が西の空に見えた。ぼんやりとしたその月はどこか妖しい黄色で、ただ朧月というのもなんか違うなあとしばらく見ていたが、ぴったりする言葉も思いつかず寝てしまった。『ホトトギス雑詠選集 春の部』(1987・朝日新聞社)の中に掲出句を見た時、病めるが如く、とはなるほど言い得て妙な表現だと納得した。普通は月を見て、病む、という言葉はなかなか出てこない。やはり四季折々親しく見上げる月だからこそ、見る者の心情や境涯が自ずと映し出されるのかもしれない。生涯病がちだった作者はこの時、どんな心持で春月を仰いでいたのだろうか。(今井肖子)




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