March 0832016

 大笑ひし合ふ西山東山

                           柏原眠雨

都を始めとして、日本にはさまざまな西山と東山がある。それは人間が右手の山と左手の山を折々眺めながら生活をしてきた証しでもある。「山笑う」は漢詩の「春山澹冶而如笑」に由来し、春の山は明るく生気がみなぎり、いかにも心地よさげに、あたかも笑うように思われることをいう。しかし掲句は、「笑い合う」としたところで、「いかにも」「あたかも」が取り外され、山そのものが命を持った存在へと変貌した。向かい合う山がお互いに大笑いする様子は、大きな腹をゆらして笑う布袋さまと大黒さまのようにも思え、まるで七福神の船に乗り合う心地も味わえる。作者は宮城県仙台市在住。本書のタイトルは五年前の東日本大震災を詠んだ〈避難所に回る爪切り夕雲雀〉から。『夕雲雀』(2015)所収。(土肥あき子)




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