March 0632016

 玉人の座右にひらくつばき哉

                           与謝蕪村

村らしい絵画的な配置の句です。玉人(たますり)は、古代の朝廷に仕えた玉作部(たますりべ)に由来します。縄文時代から作られていた勾玉(まがたま)の素材であるメノウや水晶を細工する職人が玉人です。ところで、掲句は蕪村の王朝趣味というよりも、写実と思われます。江戸時代、蕪村が住んでいた京都では御幸町通・四条坊門に玉人たちが住んでいて、画家であった蕪村は、この立体造形のアーティストたちと交友があり、その仕事ぶりを見学させてもらった時にできた即興の挨拶句なのかもし れません。玉人が硬質な玉を手にして細工している傍らで、椿の花びらが開いています。それは、玉とは対照的なやわらかな質感であり、また、色彩も鮮やかです。玉人の座右にこれを配置したところに、玉人に対する敬意が表れています。椿の美を座右の銘として仕事を続けている姿を表敬しています。『蕪村句集』(1996)所収。(小笠原高志)




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