February 2522016

 春雪や吹きガラスまだ蜜のごと

                           津川絵理子

樽のガラス工場を見学したことがある。ちょうど積雪のころでまだ寒い戸外と対照的に工場中は火がかんかんと熾り、長い吹き竿にふーっと息を吹き込むと竿の先に色ガラスがふくらんでいく。飴のように柔らかいガラスの様を「まだ蜜のごと」と表現したことで熱をもったガラス器の触れればぐにゃりと歪んでしまいそうな状態がよく言い表されている。明るく軽い春雪との取り合わせも新鮮だ。「まだ」の一言が単なる比喩を超えた臨場感といきいきとした印象を読み手に残すのだろう。上手く書けている俳句と心に残る俳句の違いは些細なようで大きい。『俳コレ』(2011)所載。(三宅やよい)




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