February 2022016

 春雨や酒を断ちたるきのふけふ

                           内藤鳴雪

雪といえば、円満洒脱な人柄と共に無類の酒好きであったことが知られており、三オンス瓶に酒を入れどこに行くにも持ち歩いていたという。大正四年十一月三日、ホトトギス婦人俳句会の第一回が発行所で開かれたが、その後句会は長谷川かな女宅で行われるようになり、鳴雪も指導にあたっていた。その折、かな女の御母堂は気配りの細やかなもてなし上手で、酒瓶が空になった頃合いを見計らって目立たぬように三オンス瓶に酒を継ぎ足していた、とは、句座を共にしていた祖母の話の又聞きである。そんな鳴雪が二日も酒を断つとは春の風邪でもこじらせたのかと思ったが、断ちたる、なので、飲めないではなく飲まない、だったのだろう。どんな事情にせよ、春雨ならではの一句である。今日二月二十日は鳴雪忌、青山墓地の一角にある墓前に漂っていた水仙の香など思い出しつつ献杯しようか。『鳴雪句集』(1909)所収。(今井肖子)




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