February 0222016

 人のみにあらず春待つ水辺かな

                           稲畑廣太郎

な夕なにきらきら光る水面が目に入る川辺の地に転居して三カ月が経った。先月ごく近所の堤にみみずくが飛来したという。ここ例年のことだというが、野性に暮らすみみずくなど滅多に見る機会もなく、ものめずらしさに何度となく見に行っている。いつ行っても、木の回りには数人のカメラマンが立派なカメラを構えているが、昼間の彼らは当然ながら寝てばかり。見慣れぬ人間に寝姿を撮られて落ち着かないことだろうが、半年ほどの滞在を無事に過ごせるよう祈っている。以前はずいぶん汚れていた水も、今ではみみずくはもとより、鮎も住める程になったという。ところで、北海道の地名に多い「ナイ」や「ベツ」は川を意味しているという。昔から人が川とともに居住してきた証しのような言葉である。まだ身を切るような冷たい風も、水を慕うように川面に触れていく。人間も鳥も、風さえも、水辺に寄り添うように春を待つ。〈下萌に犬は足より鼻が先〉〈路地といふバージンロード猫の妻〉「玉箒」(2016)所収。(土肥あき子)




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