December 19122015

 ふたり四人そしてひとりの葱刻む

                           西村和子

役でも薬味でも焼いても煮ても美味しい葱は、旬である冬のみならずいつも食卓のどこかにのぼっており、一年のうち葱を刻まない日の方が刻む日より少ないな、と思う。家族の歴史は団欒の歴史であり家庭料理の歴史でもある。生まれも育ちも違う二人が日々食事を共にして知らなかった味を知り、時にぶつかり合いながらも、次第に新しい我が家の味が作られてゆく。子供達はその新しい味で育てられ同じように家庭を持ち、そうやって脈々と代々の母の味が伝わるのだろう。やがてひとりになっても、気がつくと葱を刻んでいる。この句の葱は細い青葱、ちょっと薬味に使うほどの量だ。リズミカルな音がかろやかに響く厨に、明るい冬日が差し込んでいる。『椅子ひとつ』(2015)所収。(今井肖子)




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