December 17122015

 鮟鱇のくちびるらしき呑み込みぬ

                           平石和美

鱇のぶつ切りがスーパーに並ぶ季節になった。寒い日はアンコウ鍋でしょう、と買ってくるがぶつ切りになった部位のどこがどこやら、わからぬまま鍋に入れる。筋やら皮やら肝やら、ちょっと気味が悪いがホルモンだって同じこと。美味しけりゃいいと食べている間はどこの部位かなんてさほど気にしない。しかし口触りで、鮟鱇のくちびる?と思うが回りで食べている人に確かめるのも気が引ける。一瞬の躊躇のあと、えいとばかり呑み込んでしまう。深海魚であるあんこうの口は大きくて、くちびるは分厚そうだ。人間の口の中で咀嚼されて呑み込まれるくちびる、ことさらに考えると何か異常なものを食している気にもなる。食に隠されている気味悪さが際立つのも俳句の短さならではの効果といえる。『蜜豆』(2014)所収。(三宅やよい)




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