November 30112015

 戦争がはじまる野菊たちの前

                           矢島渚男

メリカのブッシュ政権がアフガニスタンに侵攻した際、このニュースを知って、すぐに詠んだ句だという。……という注釈をつけなければ、いつ詠まれた句かわからないほどに、戦争は世界のどこかで絶え間なく勃発している。このときに「野菊」とは、実際の野生の花であると同時に、戦争などいささかも必要とせぬ無辜の民の象徴でもあるだろう。そんな「野菊たち」の「前」で、いきなり「はじまる」のが戦争だ。かつての大戦中、空爆や機銃掃射のなかを、ただおろおろと逃げ惑った子供時代を思い出さされた。日常が戦争であるとは、なんと悲惨なことであったか。そんな思い出をもつ世代も、いまや後期高齢者の仲間入りをし、戦争を知らない人々が大半を占めようとしている。今年は戦後七十年。この間、世界的に見てこの国は奇跡的と言ってよいほどに、戦争に巻き込まれることなくありつづけた。しかしながら。最近ではキナ臭い動きも頭をもたげようとしている。ふたたび、「野菊たち」の「前」に、不穏な風が吹こうとしている。これが私の杞憂に終わればよいのだが、とにかく昨今の政治的動静からは目がはなせない。(清水哲男)




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