November 25112015

 炭はぜる沈黙の行間埋めている

                           藤田弓子

のように「炭はぜる」場面は、私たちの日常のなかで喪われつつある光景である。炭は生活のなかで必需品だった。質の悪い炭ほどよくはぜたものだ。パチン!ととんでもない音と火の粉を飛ばしてはぜる、そんな場面を何度も経験してきた。火鉢の炭だろうか。ひとり、あるいは二人で火鉢をはさんで、炭が熾きるのを待ちながら、しばしの沈黙。炭のはぜる音だけが沈黙を破る。「沈黙の行間」という表現はうまい。その場のひと時を巧みにとらえた。その「行間」の次にはどんな言葉が連ねられたのだろうか。月一回開催の「東京俳句倶楽部」で、弓子は「チャーミングな人達との会話を愉しみ、おいしいお酒を愉しむ」そうだ。ハイ、俳句の集まりはいつでもそうでありたいもの。酒豪で知られる女優さんである。「生涯の伴侶とも言いたいほど、俳句に惚れている」ともはっきりおっしゃる。他に「秋深し時計こちこち耳を噛む」「時雨きて唐変木の背をたたけ」などがある。俳号は遊歩。「俳句αあるふぁ」(1994年7月号)所載。(八木忠栄)




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