November 07112015

 秋灯に祈りと違ふ指を組む

                           能村研三

感の中でもっとも失われる可能性が低い、つまり生きていく上での優先順位が高いのが触覚で、特に手指の先に集中しているという。そう言われてみると、ヘレンケラーも指先に触れた水の感覚に何かを呼び覚まされたのだった。もし今光と音を失ったとしても、大切な人の頬を両手で包みそして包まれれば、そこには確かなものが通い合うだろう。そうやって生きている限り、手指は言葉以上に語り続ける。掲出句、気づいたら無意識に祈るような形に指を組んでいた、というだけなのかもしれない、そんな秋の夜。あるいは、その手指は二度とほどかれることはなく、その瞳も開かれることは無いのかもしれない。作者が見つめる組まれた指は、ひとつの人生を終えた持ち主と共に長い眠りにつく、とは、父の忌を修したことによる感傷的な解釈か、と思いつつ更けゆく秋の夜。『催花の雷』(2015)所収。(今井肖子)




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