October 29102015

 上着きてゐても木の葉のあふれ出す

                           鴇田智哉

思議な句である。風の又三郎のようにこの世にいながらこの世の人でないような人物の姿が想像される。上着の下に隠された身体からどんどん木の葉があふれだしてしまい、はては消えてしまうのだろうか。風に舞い散る木の葉、頭上から落ちてくる木の葉。落ちた木の葉を掃いて集めてもふわふわ空気を含んでなかなか収まらず袋に入れようとしてもあふれ出てしまう。上着を着ていることと、木の葉があふれることに何ら関係もないはずなのだが、「着てゐても」という接続でまったく違うイメージが描き出されている。特別なことは言っていないのに違う次元の世界に連れ出されるこの人の句はつくづくスリリングである。『凧と円柱』(2014)所収。(三宅やよい)




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