October 07102015

 旧道にきつねのかみそり廃屋も

                           永瀬清子

きつねのかみそり」(狐の剃刀)とは、素晴らしいネーミングではないか。調べてみると、ヒガンバナ科の多年草で有毒植物である。「おおきつねのかみそり」とか「むじなのかみそり」という呼び方もあるそうだ。別名は「リコリス」、ギリシア神話で、海の女神を意味する。おそらく山間地の人通りの少ない旧道に、この有毒植物は美しくシャープな花をそっと咲かせているのだろう。そのあたりには廃屋が何軒か残っている。鄙びた風景のなかで清子は「きつね……」に目を奪われたのだろう。ネーミングに鋭利な緊張感があり、「たぬきの……」ではしまらない。なぜ「きつねのかみそり」と呼ばれるのか、正確な理由を私は知らない。「きつね」のように「かみそり」のように、鋭く尖っている花弁の様子に由来しているように思われる。狐が棲んでいるような山間地に、わびしくひっそり凛として咲いている花のようだ。(インターネットで写真をご確認ください。)そう言えば、「きつねあざみ」(狐薊)というキク科のあざみの一種もある。永瀬清子に俳句があったとは、寡聞にして知らなかった。『全季俳句歳時記』(2013)所収。(八木忠栄)




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