October 05102015

 洪水のあとに色なき茄子かな

                           夏目漱石

年は自然災害が多い。それも考えも及ばない大きな被害をもたらしてくる。直接に被害を受けない地域で暮している私などは、災害のニュースに接するたびに、痛ましいとは思うけれども、他方で「ああ、またか」のうんざり感も持ってしまう。漱石の時代にどの程度の洪水があったのかは知らないが、私の農家体験から言うと、洪水の後の名状し難い落胆の心がよく表現されている。せっかく育てた茄子の哀れな姿。実はこの句はそうした情況スケッチではなくて、大病のあとの自分自身の比喩的な自画像だと言う。現代の文人であれば、このあたりをどう詠むだろうか。『漱石俳句集』(1990・岩波文庫)所収。(清水哲男)




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