September 2692015

 秋蟬は風が育ててゐるらしく

                           大牧 広

年東京はみんみんが多かったが、台風の影響もあってか蝉の季節はふっつりと終わった気がする。そんなこの連休に海辺の町まで少し遠出した。一時間半ほど電車に揺られて駅に降り立つと、爽やかな風にのって蝉の声が聞こえてきた。残暑の町中で聞く残る蝉は、暑苦しくいつまで鳴いているのかと思うものだが、秋の海風に運ばれてくる蝉声はからりと心地よく不思議と懐かしささえ覚えたのだった。仲間より少し遅れて目覚めた秋の蝉は、そうか風が育てているのか、と深く納得させられ、ゐるらしく、にある清々しい風の余韻に浸っている。『俳句』(2015年10月号)所載。(今井肖子)




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