September 2492015

 手の音もまじり無月の鼓うつ

                           大石雄鬼

を打つのは手ではあるが、手の音も混じるとは、鼓の縁を打つ響きなのだろうか。真っ暗な雲に月は見えないが故に雲に隠された煌々と輝く月の存在をかえって強く感じさせる。「いよーっ」と合いの手を入れながら打つ鼓は一つなのだろうか、無数に並んでいるのか。いずれにせよ「手の音」と即物的に表現したことで鼓を打つ手が生き物のようで少し不気味である。無月の「無」が後の叙述を実在しない光景のようにも感じさせて前半のリアルな描写と絶妙なバランスを保っている。余談だが、「鼓月」という銘菓が京都にある。鼓と月は相性がいいのだろか。お菓子の命名の由来は「打てば響く鼓に思いを寄せ、その名中天の月へも届け」という願いを込めて名付けられたそうだ。今年の月はどんな月だろう。『だぶだぶの服』(2012)所収。(三宅やよい)




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