September 1992015

 頬ぺたに當てなどすなり赤い柿

                           小林一茶

規忌日ということで歳時記を見ていたら、子規の好物であった柿の項に掲出句があった。赤く熟した柿を手にとって頬に当てる、という仕草は一茶と似合っているようないないような、と思ったら前書きに「夢にさと女を見て」とある。さとは一茶と最初の妻との間に生まれた長女だが生後四百日で亡くなっている。夢の中でさとがその頬ぺたに赤い柿を当てたりしている、と読むのもかわいらしいが、この、頬ぺた、は作者自身の、頬の辺り、という気がする。たった一歳で別れた我が娘、思い出すのはいつもただ泣きただ笑うその顔の特に丸くて赤い頬であり、夢に出てきた我が娘の頬の赤が目覚めてからも眼裏にはっきり浮かんでいたのだ。ちょうど熟した柿が生っていたのか置かれていたのか、赤い柿を手に取って思わずそっと頬に当ててみるが、柿はその色とは裏腹にひんやりと固かったに違いない。それでも愛おしむ様にしばらく柿を手に夢の余韻の中にいた作者だったのではないだろうか。『新歳時記 虚子編』(1951・三省堂)所載。(今井肖子)




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