August 1182015

 鶏頭の俄かに声を漏らしけり

                           曾根 毅

には植物というより、生きものに近いような存在感を持つものがある。鶏頭もそのひとつ。花の肌合いが生きものそのものといった感じもあり、個人的には少々苦手。生命力も旺盛な花で、真夏の暑さでもぐんぐん成長し、直射日光の下で深紅や黄色の鮮やかな花を付ける。その鶏頭が声を漏らすという。「俄かに」とは、急に、だしぬけに、という意味。同句集が東日本大震災の作品が多く収められているということを踏まえると、掲句は強靭な鶏頭が見た惨状への声と思わせる。鶏頭が生きものめいているだけに声を持つことに一瞬なんの躊躇もなかったが、それはいかにも不気味で禍々しい。作者は四十歳未満であることが応募資格の第4回芝不器男俳句新人賞受賞。震災ののちの現状を平素の景色のなかで詠む。副賞が句集上梓というのも若い俳人へのエールにふさわしい。〈滝おちてこの世のものとなりにけり〉〈桐一葉ここにもマイクロシーベルト〉『花修』(2015)所収。(土肥あき子)




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