August 0882015

 新涼や白寿へ向かふよき寝息

                           船橋とし

則的で安らかな寝息をたててぐっすり眠っている方は、向かふ、ということなので御年九十八歳ということになる。その穏やかな眠りを傍らで見守っている作者の気持ちに寄り添うように、窓から運ばれてくる新涼の風は心地よくやさしい。この句を読んでふと父を看取ったときのことを思い出した。それは静かで規則的な寝息なのだが少しずつ間遠になりながら、確実に終わりに向かっていった。縁起でもない連想で申し訳ないけれどその記憶が、よりいっそうこの句の、よき寝息、の健やかさを実感させた。毎年のことではあるけれど、暦とはうらはらに猛暑続きの毎日、新涼、の心地よさを実感できる日が待たれる。『輪唱』(2014)所収。(今井肖子)




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