July 2472015

 海鳥の取り落とす餌や大南風

                           依光陽子

風(みなみ)は元来船乗りの用語だったらしく、夏の季節風のことだ。あたたかく湿った風で、多く日本海側で吹く強い風を「大南風(おおみなみ)」と言う。結構な荒波で海鳥も捕獲した餌を取り落とすことがある。閑話休題。佐渡へ向かう定期便は割と大きな船なので少々の風では欠航しない。甲板に出ると鴎が寄ってきて餌をねだる。長年観光客が面白がって餌を与え続けたので、そうした習慣が身に着いてしまったのだろう。日本の海岸線には多くの島が点在し、そこへは何処でも何らかの渡船ルートや観光船コースがある。ある時遊覧船で鯛に餌を撒いていたら海面に落ちる前に鴎に奪われた。あんなひらひら風に舞う餌をさっと咥えるとは名人技である。今度こそ取られまいと餌を投げた瞬間に「こらっ!」と言って手をぱちんと叩いたら鴎が餌を取り損ねた。非日常の想定外の状況下では、猿も木から落ちるし海鳥も餌を取り落とすものである。「俳壇」(2014年12月号)所載。(藤嶋 務)




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