July 2072015

 鍬かつぎ踊の灯へと帰りゆく

                           中山世一

踊の灯。田舎の夜にとっては、特別な灯だ。普段は暮れてくると、漆黒の闇が訪れる。が、踊の夜だけは違う。多くは小学校などの広い土地が選ばれるが、今宵は灯が灯されて、暗闇に慣れた目には異常なほどに明るく写る。そんな灯を目指すかのように、仕事を終えた農夫が畑から帰ってくる。彼らが足早になるのは、単に踊の輪に加わりたいからではない。盆踊りが楽しみなのは、この行事のために久しぶりに帰郷してきた知人や友人の顔が見られるからだ。盆踊りの夜には、あちこちで再会の喜びの声が聞こえる。私も田舎に帰っていたころには、踊よりもこれらの邂逅のほうが数倍も楽しみだった。盆踊りは深夜に及ぶが、参加者には束の間くらいにしか感じられない。夢のような夜だと言ってもよい。明日になれば、また一年間会えぬ顔である。鍬をかつぐ肩に弾みがつくのも無理からぬ所以だ。『草つらら』(2015)所収。(清水哲男)




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