June 08 2015
涼風の一楽章を眠りたり
矢島渚男
作者は、一楽章を聞き落としたことを、少しも残念には思っていない。むしろ逆にそれをよしとしている。これもまた、音楽鑑賞の醍醐味なのだ。私にも覚えがあるが、この眠りは実に快適だ。そもそも野外音楽堂などでのコンサートは、周囲の環境をひっくるめて音楽を楽しもうという意図があるのだから、はじめから聴衆の眠りを拒否などしていないのである。このことから言うと、ひところ注目された「ヒーリング・ミュージック(癒しの音楽)」などとは、似て非なる世界だろう。こちらは、いわば強引に人工的に眠りを誘いだそうとする企みの上に存在していて、なんだか睡眠薬を盛られているような感じを受ける。実際の涼風のなかを流れてくる「自然の癒し効果」には太刀打ちできないのだ。この句の音楽はクラシックだが、眠くなるのはクラシックに限らない。かつて草森紳一は「ビートルズは眠くなる」と書いて、秀抜な音楽鑑賞論を展開した。彼に言わせれば、世の名曲はすべて私たちに催眠効果を及ぼすというのである。『翼の上に』所収。(清水哲男)
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