May 3152015

 美しくかみなりひびく草葉かな

                           永田耕衣

鳴が響く。草葉は、一瞬輝く。もし、この読みの順番でいいのなら、一句の中に二つの雷を詠んでいることになります。雷は、光の後に音がとどいて完結するからです。ところで、「美しく」という抽象的な表現は、俳句ではふつう避けられます。では、なぜ掲句ではその使用が許されるのでしょうか。理由の一つは、雷は視覚と聴覚の両方を備えている点であり、もう一つは、掲句が天上と地上という広大な空間を詠んでいる点です。抽象表現なら、この異なる二つの性質を包含できるからでしょう。次に、中七は、なぜひらがな表記なのかを考えます。「かみなり」は、「雷、神鳴り、神也、上鳴り」など、掛詞を考えさせられて、読み手をしばらく立ち止まらせます。これに「ひびく」をつなげると、「上、鳴り、響く」という縁語的な読み方も可能になります。上五から、美しく烈しい雷鳴は、中七まで下りてきますが、「ひびく」は終止形なので、雷鳴の音はここで断 絶します。ここまでが、雷第一弾。しばらく、沈黙と暗黒が続いた後に、閃光は、草葉の鋭角的な一本一本を瞬時、輝かせます。これが、雷第二弾の始まり。やがて、雷鳴は、沈黙と暗黒が続いたしばらく後にとどきます。作者の第一句集から。『加古』(1934)所収。(小笠原高志)




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