May 2752015

 景気よく閉す扉や冷蔵庫

                           徳川夢声

この家庭でも、冷蔵庫が季節にかかわりなく台所のヌシになってから久しい。「冷蔵庫」が夏の季語であるというのは当然だけれど、今どき異様と言えば異様ではないか。同じく夏の季語である「ビール」だって、四季を通じて冷蔵庫で冷やされている。飲んべえの家では、冷蔵庫のヌシであると言ってもいい。だから歳時記で「冷蔵庫」について、「飲みものや食べものを冷やして飲食を供するのに利用される。氷冷蔵庫、ガス冷蔵庫などもあったが、今日ではみな電気冷蔵庫になり、家庭の必需品となった。」と1989年発行の歳時記に記されているのを改めて読んでみると、しらけてしまう。1950年代後半、白黒テレビ、電気洗濯機とならんで、電気冷蔵庫は三種の神器として家々に普及しはじめた。冷蔵庫の扉はたしかにバタン、バタンと勢いよく閉じられる。普及してまだ珍しい時代には、家族がたいした用もないのに替わるがわる開閉したものだ。せめて冷蔵庫の扉くらいは「景気よく閉す」というのだから、景気の悪い時代に詠まれた句かもしれない。辻田克巳には「冷蔵庫深夜に戻りきて開く」という句がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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