May 11 2015
夕暮はたたみものして沙羅の花
矢島渚男
この「沙羅の花」は夏椿の別称であり、朝咲いて夕には散ってしまうことから、私たちのはかない心情とともに歌われてきた。冬の椿の花の命も短いけれど、万象が燃え立つ季節に咲く花だけに、夏椿のはかない命は際立つのである。句は、日常の感受の心のなかにふっと生まれ落ちる「一過性の気分」を巧みに捉えている。一日の終りの手作業は、いつものように取り込んだ洗濯物をたたむことなのだが、そのようなルーティンワークのなかで、たまさか言いようのない淡い感情の波に襲われることがある。たたみものをしながら、ふっと目をやった庭先に、沙羅の白い花がぼんやりと見えたのだろう。こういうときには、むしろ花の命の短さなどという観念は思いに入ってこないものである。ちらと目がとらえた花の「そのままのありよう」が、どことなく自分の現在のありようを抒情しているかのように思えたのだった。『翼の上に』所収。(清水哲男)
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