April 3042015

 弔砲や地獄に蝶の降りつぐ朝

                           竹岡一郎

獄とは強い言葉である。一度「地獄」が句会の兼題になったことがあるがさっぱり出来なかった。現実との接点を見つけられなかったのだ。掲句は「破地獄弾」と題した章の中の一句。二十句に渡って地獄絵図を描き出している。空に響く弔砲は誰のためのものなのか、その音にとめどなく蝶が落下してくる、蝶は降りやまずやがては地を覆いつくすのだろう。「弔」の字型は人の屍を野に捨て、朽ちてから骨をおさめに行く。そのとき獣を追う弓を携えていったことに由来すると白川静の『字統』にある。人は人を弔うことで生をつないできたが、この弔砲は人類すべてが滅んでしまった朝に撃ちあげられる空砲に思える。『ふるさとのはつこひ』(2015)所収。(三宅やよい)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます