April 2142015

 土を出てでんぐり返る春の水

                           森島裕雄

元の歳時記によると「春の水」とは、豊かであることが本意であるとされる。水が「でんぐり返る」ことで、勢いよく豊富な水量を思わせ、また春らしい瑞々しさを感じさせる。それはまるで、生まれたばかりの赤ん坊が誕生してすぐ大きな泣き声をあげるように、暗い地中を這っていた水が、春の日差しに触れたことで、喜びにもんどりうっているようにも見えるのだ。水が流れとして誕生する瞬間に立ち会っている感動に、作者もまた胸をおどらせながら春の水面を見つめているのだろう。〈筍ご飯涙のやうな味がして〉〈立ち乗りの少年入道雲に入る〉『みどり書房』(2015)所収。(土肥あき子)




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