April 1842015

 鶯のしきりに鳴いて風呂ぬるし

                           本田あふひ

の句を引いた『本田あふひ句集』(1941)は遺句集。手ざわりの佳い和紙の表紙で、大正五年から六十三歳で亡くなった昭和十四年までの作、百三十句余りが収められている。虚子の序文には「あふひさんが、一度ホトトギスの巻頭になりたいものだな、といはれたときに、私は<屠蘇つげよ菊の御紋のうかむまで >といふあなたの句がある。あなたは其一句の持主であるといふことが何よりも誇ではありませんか、と言つたことがある」というエピソードが語られている。格調高くおおらかな作風を持つ、女性俳句開花期の俳人の一人と言われているが、ふと呟いたような掲出句はどこかとぼけた味わいと人間味があって、思わず見開きの本人の写真を見返してしまった。鶯の声はきれいだったけれどちょっとお風呂はぬるすぎたのよ、でもまあゆっくり浸かってその声を楽しむにはちょうどよかったかしらね。くりっと大きい目でこちらを見ているあふひが、そんな風に言っているようにも思えてくる。(今井肖子)




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